分類によって治療が異なる

広い概念で「うつ」といっても、細かく分類するといろいろな病気が含まれます。
最近は、マスコミで「新型うつ」「非定型うつ」などと呼ばれたり(正式な医学用語ではありません)、
確かに、従来の「うつ病」の概念では捉えられないタイプの「うつ」が、増えてきています。
「うつ」の概念の混乱が、患者さんの中でも見られ、治療に影響が出る場合も少なくありません。
「うつ」を分類し、治療や対応の違いを理解していただきたく、説明を試みてみました。
しかし、「新型うつ」自体が正式な医学用語ではありませんし、分類もできるだけわかりやすくするために、他の医師との間で、多少の意見の相違が見られるかもしれません。
また、「うつ」は、社会を映す鏡でもあるので、概念も揺れ動いています。その点を、ご了解いただいた上で、お読みください。

性格+環境ストレス=病気

病気と性格には、なんらかの関係があることが少なくありません。
現代の、ストレス社会では、だれでも「うつ」になると言えますが、しかし、なりやすい性格タイプがあるのも確かです。
従来の典型的な「うつ病」(以下の「過労・心労型うつ病」)は、まじめ、几帳面、責任感が強い、何事にも頑張る、他人に気遣いしすぎるなどの、性格傾向が見られます。その性格の上に、仕事の過労や、人間関係のストレスを受けて、うつ病を発症します。
「新型うつ」も含めて、どのようなタイプの「うつ」も、性格と環境ストレスの両方の影響を受けて起こります。しかし、性格の要因が大きい場合から、環境ストレスの要因が大きいものまで様々です。
患者さんから、どのくらいで治りますか、とよく聞かれますが、性格要因が大きければ、性格は簡単に変わるものではありませんから、長期間かかります。性格、すなわち、考え方や行動を少しずつ変えていくという、患者さん本人の意志と習慣が重要です。
環境ストレスが原因の場合も、そう簡単に環境を変えることができない場合も少なくありません。いろいろな工夫が必要になります。
もともとの性格や、環境ストレスの種類によって、そのひとそれぞれの個性に合った、「うつ」にかかると言えます。次に、「うつ」の分類と、治療法についてみていきます。

過労・心労型うつ病

仕事や人間関係などに、長期間、頑張りすぎた結果、脳の疲労がキャパシティを超えてしまい、「過労・心労型うつ病」になります。
残業時間の増加、仕事の責任やストレスの増大、人間関係の複雑化によって、誰でも、「過労・心労型うつ病」になる可能性があります。
治療法は、過労・心労が原因なのですから、休養と、薬による治療によって確実に改善します。最も、典型的な「うつ病」で、早期発見、早期回復が望まれますので、早い受診をお勧めします。

適応障害によるうつ状態

適応障害とは、自分が置かれた環境と、それに適応しようとする自分自身とのギャップが大きくなり、うまく適応できなくなることを言います。その結果、不眠症になったり、うつ状態になったりします。
職場における適応障害の場合、休職すれば、ストレスの原因から解放され、速やかに、病状が良くなることも少なくありません。しかし、問題を解決できないまま、復帰しようとすると、また現実に直面し、病状が不安定になるという特徴があります。
職場が原因となる適応障害には、上司(先輩)が過度に厳しい、職種が自分に合っていない、などがよく見られます。上司も、職種も、そう簡単には変えられません。大きな企業の場合には、異動できる場合もありますが、それができない場合、自分自身が順応していく必要があります。転職せざるを得ない場合もあるかもしれません。
環境に問題がある場合は、異動したり、転職すれば、解決しますが、自分自身の適応力に問題がある場合もあります。このような場合、自分の社会適応力を向上させていく必要がありますので、残念ながら、医療の対象にはならず、治療はできません。カウンセリングなどにより、自分自身を見つめなおし、少しずつ変わっていくことが本質的な解決法です。

双極性障害のうつ状態

躁うつ病とうつ病は、名前は似ていますが、大きく異なる病気です。
循環気質や躁うつ気質と呼ばれる性格傾向のひとがなりやすく、もともとの性格が大きく関与していると思われます。循環気質とは、テンションの高い状態と、元気がない状態を周期的に繰り返す性格傾向の人を言います。
躁うつ病は20歳前後から20代に発病し、一度発病すると、何度か入院することもあるほどで、一生涯、薬物治療が必要です。
最近は、もっと病状は軽いけれども、躁うつ病の傾向を持っている人が、うつ病と診断されていた人の中の一部にいることが分かってきました。若くして発病する重いタイプを双極Ⅰ型障害と呼び、軽症のタイプを双極Ⅱ型障害と呼んでいます。
双極Ⅱ型障害は、最初医療機関に受診する時はうつ状態ですので、抗うつ薬を使用すると、容易に軽躁状態または躁状態となってしまうことがあります。抗うつ薬を安易に使えないため、それ以外の薬を基本に、薬物治療をしていくことになります。
何か、自分にとって刺激のあることがあると、テンションがあがり、刺激のない淡々とした日常生活を送っていると、軽うつ状態で安定し、ストレスとなることがあると、うつ状態になる、というパターンを繰り返す印象があります。このように環境によって気分が左右されやすいので、気分の波の幅をできる限り小さくすることが、治療方針になります。抗うつ薬が使いにくいため、薬物療法だけで、うつ状態を改善させるのは困難です。適度な刺激をともなう安定した生活習慣を送ることが重要です。

気分変調症のうつ状態

気分変調症は軽度のうつ状態が慢性的に長く継続する病気です。「軽度」とは言っても、診断の上で軽度というだけで、本人の辛さが軽いわけではありません。むしろ、長期間、うつ状態が続くことは、大変つらい病気といえるでしょう。
治療法は、ストレスを受けやすいという、もともとの性格が大きく関連していることもあるので、抗うつ薬の効果は出やすいですが、長期間にわたって、服薬が必要になることが多いでしょう。

境界性人格障害のうつ

境界性人格障害は、情緒不安定性人格障害とも呼ばれますが、繊細で、ストレスを感じやすく、気持ちの浮き沈みが激しいことが特徴です。
孤独感、虚無感、淋しさ、むなしさを強く感じやすい性格のひとがかかりやすく、自傷行為、過量服薬、過食などの行為が見られます。人間関係など心理的な問題を抱えていることがほとんどですので、カウンセリングが重要な治療法になります。薬は、せいぜい、症状をコントロールするだけでしかありません。